認証コーヒーとは?プレミアムは誰が払い、どこへいくのか

丸い認証タグの中央が扉のように開き、その奥に地平線と小道、「?」、コーヒーの木のシルエットが見えるイメージ(「認証マークは『入口』/その先に何があるのか」の文字入り) 産業・マーケティング

先日、コーヒーインストラクターの勉強をしていて、教科書の「認証コーヒー」のセクションで目が留まりました。

これまでコーヒー1杯の代金の行方や、ベトナム中部高原で畑になる前の土地のことなど、豆の値段まわりばかりを調べてきたからでしょうか。「認証というラベルそのもの」がお金の流れをどう変えるのかが、気になりました。

マークの付いた豆に、誰がいくら余分に払っているのか。そのお金は、どこを通って農家まで行くのか。その認証にどんな意味があるのか。

今回は、そんなことについて調べてみました。

まず前提——「認証コーヒー」は1つの制度ではない

認証コーヒーとは、第三者の機関が定めた基準に適合していると認められたコーヒーのことです。

私はこれを「マークが付いていれば、農家に上乗せ価格が保証される仕組み」だと思い込んでいました。

ところが、、、守ろうとしているものが、制度ごとにまったく違いました。

フェアトレード(青と緑の丸いマーク)

途上国の小規模農家は、国際相場の乱高下や取引先に対する交渉力の弱さによって、収入が不安定になりやすいという問題があります。この問題に対して、途上国の小規模農家・労働者の貧困削減と自立支援を目的に作られました。「最低価格」(相場が暴落したときの下支え)と「プレミアム」(共同投資のための上乗せ金)の二本立ての価格保障を持ちます。

認証が与えられるのは個々の農家ではなく、民主的に運営される協同組合・生産者組織です。人権や労働環境、特定農薬とGMO(遺伝子組み換え作物)の禁止も基準に含まれます。

価格の保証あり

オーガニック

慣行栽培では合成農薬・化学肥料・除草剤・GMOへの依存が土壌や生態系に負荷をかけるという問題があります。この問題に対して、これらの全面禁止を中核に据えました。認証を取るには3年間の転換期間が必要です。

→ 価格の保証なし。市場での上乗せが取引のインセンティブになるにとどまります

レインフォレスト・アライアンス(緑のカエルのマーク)

コーヒー栽培の拡大が森林破壊や生物多様性の喪失を招き、同時に労働者の人権や生活賃金が守られないという問題があります。この問題に対して、生物多様性と森林・水資源の保護、労働者の人権・生活賃金の両立を目的に作られました。シェードツリー(日陰で育てるために畑に植える背の高い木)の基準や、森林破壊の禁止が特徴です。

→ 価格の保証なし

UTZ

栽培や収穫の手順が記録されず、トレーサビリティが確保されていない生産管理の甘さが問題視されていました。この問題に対して、農業経営の「プロフェッショナル化」——適正農業規範(GAP。栽培や収穫の手順を決めて記録に残すやり方)とトレーサビリティ——を中核に据えました。現在はレインフォレスト・アライアンスに統合されています。

→ 価格の保証なし

並べてみて、一番大事だと思ったのはここでした。

価格を保証しているのは、実質フェアトレードだけのようなのです。

つまり緑のカエルの袋は、「価格が保証された豆」ではなく「森を守る基準に適合した豆」という意味。そもそも約束している内容が違うというわけです。

フェアトレードの価格は「2階建て」——最低価格とプレミアムは別の金である

最低価格は「高いほうが勝つ」セーフティネット

最低価格を支払うのはバイヤー(輸入業者・商社・焙煎業者など)で、受け取るのは個々の農家ではなく生産者協同組合とされています。

ただし常に上乗せされるわけではありません。C市場価格(国際先物価格)が最低価格を下回ったときだけ最低価格が適用され、上回っていれば市場価格が適用される。「高いほうが勝つ」仕組みです。

つまり、上乗せではなく「床」なのです。

取引の80%以上を占める水洗式アラビカで、現行は1ポンドあたり1.80米ドルとされています(2026年12月から2.00米ドルへ引き上げられる予定ですが、この記事を書いている2026年8月時点ではまだ適用前の数字です)。

プレミアム0.20ドルは、農家ではなく組合の口座に入る

もう一階、別のお金があります。フェアトレード・プレミアムです。

最低価格とは完全に別枠で、取引1ポンドごとに一律0.20米ドルが、市場価格の高い安いに関わらず常に上乗せされるとされています。1ポンドはおよそ454グラムですから、家庭でよく買う200gの袋に割り戻すと1袋あたり9セント弱です。

そして、このプレミアムを受け取るのは、農家個人ではありません。協同組合です。使途は組合員の民主的な投票で決まるとのことでした。

受取名義が、個人ではなく組織である。この設計が、このあとの「組合の中で何に使われるか」の出発点になります。

プレミアムは組合に届いたあと、どう使われるのか

無事に組合まで届いたプレミアムは、農家個人への現金分配ではなく、組合の一括基金として投票で使途が決まります。実際に使い道として多いのは組合の設備投資と地域インフラで、農家個人への現金ボーナスは一部にとどまるとのことでした。

たとえばコスタリカのCOOCAFEでは、奨学金基金によって2,598人の高等教育を支援したことが報告されています*1。こういった利用の仕方もあるみたいです。

一方で、こんな報告も、、、

SOAS(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)などの調査により、プレミアムで整備されたインフラの恩恵が定住権を持つ組合員世帯に優先され、季節雇用労働者や移民労働者が排除される傾向があるとされています*2。

【盲点】認証を取っても、フェアトレード価格で売れるとは限らない

ここまでは「もらったプレミアムがどう分配されるか」の話でした。でも、まったく別の軸の減り方があります。

そもそもフェアトレード価格で売れていない、という問題です。

フェアトレードの認証条件を満たしていても、実際にその価格で売れている割合は生産量の18〜37%にとどまるとされています。コスタリカの分析では、資格のあるコーヒーのうち実際にフェアトレード価格で売れたのは11%だったと報告されています*1。

つまり農家の受取価格は、「フェアトレード価格で売れた分」と「一般市場で売った分」の加重平均になります。

認証は売る資格であって、買い手の約束ではない。この点は完全に盲点でした。

認証を「取る側」の家計簿——費用は誰がどう払っているのか

視点を反転させます。農家と協同組合は、払う側でもあります。

固定費だから、割る人数で景色が変わる

フェアトレードでは、新規申請料が720米ドル、年間維持手数料が1,585〜3,749米ドルと報告されています。

注目したいのは、これらの多くが固定費だということです。組合員が多いほど1人あたりは軽く、少ないほど重くなる。組合の規模と、割る人数。それだけで景色が変わってしまいます。勿論、救済制度はあるようですが、それでも本当の意味での小規模農家の方々にとってはハードルが高いのかもしれません。

制度によって桁が違う——しかも費目で順位が入れ替わる

300人規模の組合を想定した農家1人あたりの年間監査費用は、レインフォレスト・アライアンスが25〜33米ドル、フェアトレードが約10米ドル。ところがICSの運営・事務コストでは、UTZが約82米ドルで最も高くなります。

認証制度ごとの農家1人あたり年間コストを、年間監査費用・初期栽培設備投資・ICS運営費の3項目で比較した図。レインフォレスト・アライアンスは監査費用(25〜33ドル)と初期設備投資(約67.5ドル)で最も高いが、ICS運営費だけはUTZが約82ドルで最も高く、費目によって順位が入れ替わることを示す

ただ、これを「フェアトレードのほうが優れている」と読むのは違うと思っています。森を守るには日陰の木を植え、緩衝地帯を確保し、毎年監査してもらう必要がある。守ろうとしているものが違えば、必要な手当ても違うのです。

オーガニックの3年間——上乗せ価格が出ないまま収量が落ちる

オーガニックには、コストとは別の重い話があります。転換期間です。

認証の取得には一般に3年(36か月)が必要で、この間は禁止物質を排除して栽培しなければなりません。

しかし、、、その3年間、市場での価格上乗せは期待できないとのことでした。

しかも収量は落ちます。コロンビアの研究では約24%の低下*3。労働コストのほうは、有機堆肥の製造や手作業での除草によって30〜50%増加するとされています。

収量が減り、コストが増え、上乗せ価格はまだ付かない。それが3年続く。

体力のある経営でなければ、選べない選択なのかもしれません。補填の仕組みはインドや米国などにありますが、すべての農家がアクセスできるわけではないようです。

では、認証は農家を豊かにしたのか——研究の結論は国ごとに割れている

それでは、結局、認証を取った農家は豊かになったのでしょうか。

答えを先に書くと、研究の結論は、国ごとに反対を向いています

  • エチオピア・インド・ニカラグアの3か国比較*4:エチオピアは収量・世帯収入とも非認証より有意に劣る。インドとニカラグアは純収益こそプラスだが、世帯総所得では有意差が出ない
  • コスタリカ*1:農園主の所得は平均2.22%有意にプラス。ただし季節雇用労働者の賃金への効果は、統計的にゼロ
  • ニカラグアの10年間の縦断調査*5:ダブル認証農家は、非認証農家より絶対的貧困線を下回る確率が有意に高かった

プラスの報告も、マイナスの報告も、差なしの報告も、全部あるのです。

そして、コスタリカの結果に目が留まりました。農園主の所得はプラス。季節雇用労働者の賃金は、ゼロ。

土地を持っている人と、持っていない人。同じ畑で同じ収穫期を過ごしていても、制度の届き方が違う。

一報告ではありますが、エチオピアの試算では、品質プレミアム(フェアトレードプレミアムではなく、市場が決定するプレミアムのこと)が仮に100%農家に伝達されたとしても、1世帯あたりの所得増加は年間わずか約20米ドルにとどまるとされています*6。月あたり2ドル弱です。

エチオピアの方々の平均年収は50~200ドルと考えると、生活を劇的に変えるほどの効果ではないのかもしれません、、、

まとめ:ラベルは「約束」ではなく「入口」

  • 価格を保証しているのは、実質フェアトレードだけ。他のラベルが守っているのは価格ではない
  • プレミアムは組合の口座に入り、投票で使途が決まる。現金分配とは限らない
  • 認証は、取る側にも費用がかかる。固定費なので、小さい組合ほど1人あたりが重くなる

私は認証マークを、「生産者にお金が渡る保証」ではなく「特定の取引条件が付いた豆である」という表示だと考えるようになりました。

それでも最低価格には、相場が暴落したときに床を作るという機能があります。床は役に立っているとき、誰も気づかない。だから私は、認証を選ぶことが無意味だとは思っていません。ただ、「これを買えば解決」という単純な制度設計でもないのなかもしれません。

奨学金で進学した2,598人と、賃金への効果がゼロだった季節雇用労働者。この二つが、同じ制度の中に並んで存在しているということです。

ラベルは答えではなく、その先を見に行くための入口。

私の大好きなロースターは直接生産者と会い、ダイレクトトレードもやっています。生産者と消費者が繋がる上で非常に素晴らしい取組みだと思います。私もその一ファンです。

しかし、、、現実的には全てのロースターができることではありません。

絶対に卸業者が不可欠です。そう思うと、また頭の奥底で、、、

「生豆の品質に甘えて、焙煎や抽出がおろそかになっているんじゃねぇ」

先日見た某コーヒー雑誌の一文が思い出されます、、、(^^;

注記

  • 本記事の数値は、特定の国・特定の時期(多くは2000年代〜2015年前後)の調査に基づくものです。また引用した研究の多くは観察データの比較分析であり、無作為化比較試験ではありません。「認証を取得したから収入が増えた/減った」という因果関係が実証されたものとして読まないでください。
  • コスタリカの研究(*1)は査読前のワーキングペーパーです。
  • 日本市場における認証コーヒーの実態を直接調べた資料は、今回のリサーチでは確認できませんでした。本文中の数値はすべて欧米・生産国側での調査によるものです。
  • フェアトレード最低価格の2.00米ドル/ポンドは2026年12月1日適用予定の改定額であり、本記事執筆時点(2026年8月)の現行価格は1.80米ドル/ポンドです。

参考文献

*1 Dragusanu R, Montero E, Nunn N. The Effects of Fair Trade Certification: Evidence from Coffee Producers in Costa Rica. National Bureau of Economic Research Working Paper Series. 2018;No. 24260.(査読前のワーキングペーパー。2021年改訂)

*2 School of Oriental and African Studies (SOAS), University of London. Fair Trade, Employment and Poverty Reduction in Ethiopia and Uganda. SOAS; 2014.(著者名は確認できず)

*3 Ibáñez M. Adoption of certified organic technologies: the case of coffee farming in Colombia. Proceedings of the German Development Economics Conference, Hannover 2010. 2010;No. 58.(査読誌の論文ではなく、学会プロシーディングス収録の報告)

*4 Jena PR, Grote U. Do Certification Schemes Enhance Coffee Yields and Household Income? Lessons Learned Across Continents. Front Sustain Food Syst. 2022;5(Article 716904):1-19.

*5 Beuchelt TD, Zeller M. Profits and poverty: Certification’s troubled link for Nicaragua’s organic and fair-trade coffee producers. Ecol Econ. 2011;70(7):1316-1324.

*6 Minten BJ, Dereje M, Engeda E, Tamru S. Who benefits from the rapidly increasing Voluntary Sustainability Standards? Evidence from Fairtrade and Organic coffee in Ethiopia. 2015.(掲載誌名は確認できず。国際農業経済学会2015年大会の発表論文、またはIFPRIのワーキングペーパーとして記録されており、査読誌論文ではない可能性が高い)

*7 Méndez VE, Bacon CM, Olson M, Petchers S, Herrador D, Carranza C, et al. Effects of Fair Trade and organic certifications on small-scale coffee farmer households in Central America and Mexico. Renew Agric Food Syst. 2010;25(3):236-251.

*8 de Janvry A, McIntosh C, Sadoulet E. Fair Trade and Free Entry: Can a Disequilibrium Market Serve as a Development Tool? Rev Econ Stat. 2015;97(3):567-573.

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