日本茶の「合組」とは——「静岡茶」の袋がひとつの畑ではない理由

「静岡茶」など産地名の書かれた煎茶の袋と、複数の荒茶を組み合わせる合組のイメージ コーヒー

前回の記事では日本茶の茶葉の栽培や被覆についてお伝えしました。

そこには日本独自の素晴らしい製法があり、農家の方々の”手間暇”が隠されていました。

一方で、その後の工程で少し違和感を持った部分がありました。

茶葉の栽培→蒸し(殺青)→乾燥→ブレンド、、、

ブレンド???

いや、確かにコーヒーもブレンドをすることがありますが、あたかも絶対的な工程の一つかのような表現、、、

ブレンドってルーティンなの?

ということで、今回その「ブレンド」について調べてみると、、、そこにも職人の業がありました。

その名も、、、「合組(ごうぐみ)」

なんかもう響きだけでかっこいいんですが、、、(^^;

今回は合組という工程と、それを担っている「茶師」についてまとめてみます。

「静岡茶」と書かれた袋に入っているのは、ひとつの畑のお茶ではない

まず最初に整理しておきたいこと。

「静岡茶」や「宇治茶」という言葉は、その地域一帯で生産されるお茶の総称であって、単一の産地や単一の農園を意味する言葉ではないそうです。

そして市場で流通しているものの多くは、複数の茶園・複数の品種・複数ロットの荒茶を、茶問屋や茶師が組み合わせて作った「統一銘柄」なのだとか。

つまり袋の「静岡茶」は、コーヒーでいうところのシングルオリジンではなく、店の看板ブレンドの名前に近いわけです。

これ、私はまったく逆に理解していました。産地が書いてある=その産地の畑のお茶、だと思い込んでおりました私、、、(^^;

だからこそ、不作の年でも「毎年変わらない、いつもの味」を、大量に、安定して棚に並べられるのだそうです。

工程の中での位置はこうなっています。

荒茶から選別・整形・切断、火入れ、合組を経て仕上茶になる日本茶の仕上げ工程の流れ図。最後の合組を強調している

荒茶というのは、「まだ製品ではない原料茶」のこと。それを選別して形を整え、火入れで乾かして香りを出し、最後の最後に合組をして仕上茶になる、という順番のようです。

つまり合組は、お茶づくりの締めくくりの一手ということになります。

合組の目的とは

①不作の年でも棚を空けないための「標準化」

単一の農園に頼りきると、その農園が不作だった年は供給が一気に落ちます。ロットごとの品質のばらつきも、そのまま製品のばらつきになってしまいます。

そこで長所と短所を持ち寄って、互いに補い合わせる。品質と供給量を安定させるための、産業としての防壁のようなものだとされています。

②去年と同じ味をつくる——農産物では本来ありえないこと

同じ農家の、同じ木から採れた葉でも、摘採日・気温・湿度で味は変わってしまう。前年とまったく同じ原料でお茶を作ることは、物理的に不可能なのだそうです。

だから茶師が荒茶を見極めて、調合の比率を動かして、「毎年同じブランドの味」に着地させる。

変わる原料から、変わらない味を作る。 合組はそのための工程だ、ということなのです。

③普段使いの煎茶と贈答用の煎茶は、最初から味が違うように作られている

3つめは、味の設計そのものです。

想定する価格帯、想定する客層、コスト、流通量。それらを計算したうえで、どの荒茶をどう組み合わせるかを決める。普段使いの安価なお茶から高級な贈答用まで、それぞれに狙った味がある、という説明でした。

つまり価格が違うお茶は「安いほうが薄い」のではなく、最初から別の設計図で作られているということになります。

なんとなく「高いお茶=いい茶葉をそのまま使っている」と思っていたので、ここも認識を書き換えられました。

荒茶3〜8種類を組み合わせる

では、実際どのくらいの数を混ぜているのでしょうか。

一般的な合組製品では、荒茶を3〜8種類ほど組み合わせるとのこと。

組み合わせの軸は、大きく3つあるようです。

  • 品種ごとの個性の掛け算:渋みの強い茶に旨みの強い茶を合わせる。香りの強い「香駿」を少量だけ加えて香りを立たせる。水色(すいしょく、お茶の液体の色)を鮮やかにする「あさつゆ」を色出しに使う、など
  • 複数産地の融合:宮崎・鹿児島・静岡・狭山などをまたいで深みを出す
  • 茶期の組み合わせ:一番茶をベースに、二番茶・三番茶でコクを補う

ただし、「どの茶葉を何%ずつ」という固定レシピは存在しないらしいのです。

原料のほうが毎年変わってしまうので、その年のロットを都度テイスティングして比率を決める。

レシピが固定されていないのは、味を固定するため。

実際の合組は?

なんとなく茶師の「勘」でやっているのかと思いましたが、実際はきちんと道具と手順があるようです。

黒い盆と白い茶碗——「拝見」という手続き

茶葉の品質を見る官能審査を「拝見」と呼ぶそうです。使う道具が、かなり細かく決まっています。

  • 拝見盆:黒く塗装されたブリキ製。茶葉の緑を引き立てるために黒
  • 拝見茶碗:白い磁器製で200cc。水色と茶葉の変化を見るために白
  • 天秤:茶葉を3g/4gで計量する
  • すくい網:茶殻の香りを嗅ぐための道具
  • 審査用さじ:銀製・洋銀製で5〜10cc
  • ストップウォッチ:浸出時間の管理。基本は3分で、一部5分

手順は4段階とされています。

  1. 外観:形状・色沢・乾燥状態を、手で触りながら確認する
  2. 香気:規定量の茶葉に熱湯200ccを注いで3分浸出し、すくい網で茶殻の香りを嗅ぐ。特に火入れの香り(火香)を確認する
  3. 水色:茶葉を除いた液体の色を見る
  4. 滋味:最も重視される。スプーンで吸い込むように口に含み、旨み・甘み・渋み・苦み・喉越し・後味を評価する

拝見の4ステップ図。外観・香気・水色・滋味の順に、使う道具と着眼点を並べた図

粉の香りを嗅いで、湯を注いで一定時間待って、さじですすって味を見る。

、、、なんだかコーヒーのカッピングと似てませんか。

ちなみに盆が黒く、茶碗が白いと決まっているのは、見え方を毎回そろえるためだそうです。

段位がある——約70年で15〜30人未満という数字

「茶師」を名乗るのに国家資格や免許はないようです。

もともとは栽培・製茶・流通・販売に携わる人全般を指した言葉で、現在は主に、荒茶や仕上茶を買い付けて火入れ・合組を行い、製品に仕上げる役割を指すとのこと。ソムリエや調香師に例えられることが多いようです。

それでは実力は何で示すのか。

そこにあるのが「全国茶審査技術競技大会」です。1956年から毎年開催されていて、主催は全国茶業連合青年団。

様々な競技がありますが、中にはお茶は飲まずに茶葉の形状や香りのみで茶期(一番茶、二番茶、三番茶)を当てるという審査もあります。

味覚だけではなく、五感を研ぎ澄まして闘うことが必要とされるようです。

ここでの成績が、初段から十段までの段位になります。

  • 初段〜六段:大会の成績で取得できる(飛び級もあり)
  • 七段〜十段:前の段位を保持したうえで、年1回の大会で得点率80%以上(40点満点中32点以上)をクリアするごとに、1段ずつ昇段
  • 十段:さらに全国の団長会議の推薦が必須

七段から上は、8割を「毎年」取り続けないと次に進めない、という積み上げ式。

ちなみに「茶師十段」を取得した茶師は約70年の歴史の中で、認定者は15〜30名未満とされているようです。まさにレジェンドですね、、、

なぜブレンドが前提になったのか——1859年、開港が決めた

それでは、そもそもなぜブレンドが当たり前になったのか?

その一つの原因として考えられるのが「流通」です。

前提として、農産物としての制約があります。同じ木でも摘採日・土壌・気温・施肥で味が変わるので、単一農園に依存していると供給減と品質のばらつきが避けられない。ここまでは分かります。

決定的だったのは輸出だったようです。

1859年の開港以降、日本茶(主に煎茶)は生糸に次ぐ主要な輸出品目になりました。そして海外市場、主にアメリカが求めたのは、均一な品質と大口のロット。

個々の小規模農家の生産規模では、まったく歯が立たなかったわけです。

そこで産地問屋や茶商が各地から荒茶を集め、大規模な合組場で平準化し、大ロットにまとめる流通構造が定着していきます。開港場だった横浜・長崎・神戸、のちに清水で、「再製火入れ」と大規模な合組が近代の流通インフラになった、と説明されているようです。

その結果、個々の農家は市場価格を受け入れる「プライステイカー」となり、買い手側である問屋・茶師が合組して「地域ブランドの統一銘柄」として流通させるシステムが主流になった、とのこと。

前史もあります。1738年、永谷宗円が「青製煎茶製法(宇治製法)」を開発して煎茶が誕生し、1835年には玉露も生まれて産地が拡大していく中で、茶商によるブレンド技術が急速に発達したそうです。さらに遡れば、江戸時代の宇治茶師が将軍家や大名家の好みに合わせて異なるロットを調合していた、というのが合組の原型とされています。

味のためだけではなく、売り方の都合でもあったということでしょうか。

確かにこの辺りはコーヒーと通ずる点もありそうです。アフリカ諸国については、単独の大規模農園というよりはある地域一帯の協同組合や農協が小規模農家から栽培された豆を集めて、精製する、という過程が多いですよね。

「シングルオリジン」という概念は?

それでは、日本茶には「シングルオリジン」という概念はないのか?

調べてみると、インターネット上でも、ちらほら「シングルオリジン」を楽しめるお茶屋さんもあるようです。

この辺りはワインとも通じるところがありますが、「毎年同じ均一な味」という楽しみより、「畑や品種ごとの個性とストーリーを楽しむ」体験が重視されているように思えます。

私はお酒が弱いので、ワインについてはなかなか足を踏み込むことができないのですが、「〇〇年は当たり年だった」、というのはよく聞く話かと思います。

しかし、確かにお茶に関してはニュース等で「今年は当たり年」なんてことは聞いたことがありません。

コーヒーはどうでしょうか?私が個人的に利用するお店では「今年も〇〇の国の〇〇さんから入荷しました」という紹介はあります。

去年の味を明確に覚えているわけではありませんが、そういったコーヒーを口に入れたとき、「あっ、確かにこんな風味だった」と記憶が蘇ったような経験がありました。味は勿論美味しいのですが、その何とも言えない心地よさがたまりません。

スペシャリティコーヒーを愛する方々にもきっとこのような経験があるのではないでしょうか?

そういったことが日本茶にもあっていいのかな、と個人的には思いますし、実際にお茶の品種も多様化しているようであり、それぞれの尖った個性を味わってもらおいうというお店も出てきているようです。

この辺についてはまた実際のお店を利用した感想などを記事に書いてみたいと思います。

まとめ:日本茶にとってブレンドは茶師による「業」そのもの

合組は、決してかさ増しのための工程ではありません。

毎年変わってしまう農産物から、「毎年同じ味」と「狙った味」を作り出すための設計作業。それによって、日本独自の「お茶」は世界に瞬く間に広がりました。

そこには「茶師」という匠の業がある。コーヒーのカッピングと同様に様々な道具、手順でしっかりと評価される。

なんとなくスペシャリティコーヒーはシングルオリジン一択という考え方を持っていました。

ブレンドしちゃうのは、コーヒー農家さんに対して失礼だと。

確かに際立った個性を均一化してしまうのは勿体ない、と思ってしまいます。

でも、その個性を活かして、安定した味を作り続けることが、安定した需要・供給を生み出す、ということもあるかもしれない。

と、考えると、コーヒー業界全体にとっても実は重要なことかもしれない、、、と。

1日の始まりや終わりにいつものブレンドで自分だけの安らぎのルーティンがあり、時にはシングルオリジンの際立った個性を楽しむ、そんなコーヒーの楽しみ方があってもいいのではないでしょうか。

この記事について

この記事の内容は、日本茶業界の解説資料と、茶商・茶業団体が公開している情報をもとに整理したものです。

合組が定着した歴史的な経緯についても、資料の記述を要約したものであって、統計的に検証された因果ではありません。数字や年号は、あくまでリサーチ時点で確認できた範囲のものとしてお読みいただければと思います。

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