ドイツにあるコーヒーだけの税金とは?税率・歴史を解説

コーヒー豆の山に「Kaffeesteuer」の税マークが重なり、通常の消費税(VAT)とは別に個別課税される二重構造を示したイラスト 産業・マーケティング

リード

先日、記事のネタ探しでいろいろな資料を漁っていたら、ふと目に留まった一文がありました。

「ドイツには、コーヒーにだけかかる税金がある」

……え、待って。

紅茶でもビールでもなく、コーヒーだけ?

正直、最初は何かの都市伝説かと思いました。

調べてみると、これがれっきとした実在の制度でした。名前は「コーヒー税(Kaffeesteuer)」。

しかも、よくある軽減税率とかの消費税(VAT)の話とはまったくの別物です。

この記事では、コーヒー税の現在の税率、なぜコーヒーだけが狙い撃ちにされているのか、いつから続いているのかを、一コーヒー好きの視点でまとめてみます。

ドイツの「コーヒー税」とは何か——消費税(VAT)とは別物の独立課税

まず最初に整理しておきたいことがあります。

コーヒー税は、消費税(VAT)とは別建ての税金だということです。

日本語で「ドイツ コーヒー税」を調べると、実は多くの記事が軽減税率7%・標準税率19%というVATの話をしています。

でも、それとコーヒー税(Kaffeesteuer)は違う制度です。

コーヒー税は、焙煎コーヒーと可溶性コーヒー(インスタント)だけを対象にした個別消費税。日本でいえば酒税やたばこ税と同じカテゴリの、特定品目狙い撃ち型の税金です。

つまりドイツでコーヒーを買うと、コーヒー税とVATの二重で税金がかかっている、ということになります。

しかもコーヒー税は、価格にあらかじめ織り込まれた「隠れた税金」。レシートを見ても、単独の項目としては出てきません。

私たちが普段、消費税を意識して買い物をするのとは、ちょっと勝手が違うわけです。

現在の税率はいくらか——焙煎コーヒー・インスタント・お菓子まで

焙煎コーヒーと可溶性コーヒー(インスタント)の税率比較の棒グラフ。焙煎コーヒーは1kgあたり2.19ユーロ、可溶性コーヒーは1kgあたり4.78ユーロ

では、実際どのくらいの税率なのでしょうか。

  • 焙煎コーヒー:1kgあたり2.19ユーロ(約370円)
  • 可溶性コーヒー(インスタント):1kgあたり4.78ユーロ(約810円)

インスタントのほうが2倍以上高いのは、ちょっと意外でした。

生豆(未焙煎のもの)は非課税です。国内で焙煎するか、加工済みの製品を輸入した段階で、初めて課税対象になります。

コーヒーを一定量含むお菓子や食品にも、含有量に応じた段階税率がかかります。1kgあたりのコーヒー含有量が10g未満なら非課税、900gを超えるとほぼ通常のコーヒー製品扱いになる、という仕組みです。細かい数字までは、ここでは深追いしません。

注目したいのは、この税率が2002年のユーロ導入時に確定して以来、一度も改定されていないという点です。

旧ドイツマルクの税率を、そのまま換算レートで置き換えただけ。

物価はこの20年余りでかなり上がっているはずなのに、コーヒー税だけは当時の水準のまま据え置かれている、ということになります。

ちなみに、カフェで飲む1杯のコーヒーにも、使われた豆の分だけ間接的にこの税が含まれています。概算では、1杯あたり0.02〜0.03ユーロ程度(約3〜5円)*1。感覚としては、数円レベルです。

誰が納めているのか——消費者ではなく焙煎業者・輸入業者

「じゃあ、コーヒーを買うたびにレジで払っているの?」

いいえ、そうではありません。

納税義務者は消費者ではなく、焙煎業者や輸入業者です。私たちが店頭でこれを意識する場面は、基本的にありません。

ただし例外もあります。ドイツ国外のオンラインショップから個人で豆を直接買う場合、販売業者側の納税手続きが不十分だと、購入者が二次的な納税義務を負うリスクがあるとされています。「知っておくと得する豆知識」くらいの温度で覚えておいてもらえればと思います。

なぜコーヒーだけが狙い撃ちにされているのか——260年近い歴史をたどる

ドイツのコーヒー税の歴史年表。1766年輸入を禁止、1781年国家独占令、1787年独占を廃止、1948年税制として導入、1953年大幅に減税、2002年現行税率が確定という6つの出来事を時系列に示した図

ここからが、個人的に一番おもしろいと思ったパートです。

なぜコーヒーだけが、こんな特殊な扱いを受けているのか。

その答えは、260年近い歴史の積み重ねの中にありました。

プロイセン時代——フリードリヒ大王の「コーヒー国家独占令」と密輸監視官

話は18世紀のプロイセンまでさかのぼります。

1766年、フリードリヒ大王がコーヒーの自由な輸入・取引を禁止しました。

1781年には「コーヒー国家独占令」を発布。焙煎はベルリンの国営焙煎所に限定され、許可を得た商人だけが独占価格で販売できるようになります。

背景にあったのは、七年戦争後の財政難と、コーヒー輸入によって国外に銀貨(プロイセン・タール)が流出することへの懸念でした。

面白いのは、ここから。

密輸を取り締まるため、大王は元フランス人軍人を約400人も雇い入れました。通称「コーヒー嗅ぎ(Kaffeeriecher)」。焙煎の匂いを嗅ぎ分けて、密輸を摘発する専門の監視官です。

令状なしの家宅侵入まで行っていたそうで、市民からはかなり嫌われていた……らしいです。

しかもフリードリヒ大王自身は、コーヒーを愛飲していました。庶民の消費だけを「経済に悪影響を与える贅沢」とみなし、代わりに国産のビールスープを奨励していたというのだから、なんとも身勝手な話です。

うーん……偉い人の「お前らはダメ、俺はいい」、いつの時代にもありますよね。

結局この独占制度、1787年(大王の没後)に廃止されます。取り締まりコストが税収を上回り、密輸も根絶できなかったからです。

関税同盟から占領下の再導入、そして「アーヘン・コーヒー戦線」

独占制度の廃止後、19世紀に入るとドイツ関税同盟(Zollverein)が成立し、これを機にコーヒーは新たに「輸入関税」という形で課税されるようになります。

先ほどの独占令は、あくまで販売・流通を国家が握る仕組みで、税ではありませんでした。この輸入関税こそが、コーヒーに対する「課税」の始まりです。帝政期からワイマール期にかけて、コーヒーは重要な財源であり続けました。

そして転機が訪れるのが、1948年。連合国の占領下で、現代的な国内消費税としてのコーヒー税が制定されます。1949年の西ドイツ建国時には、正式に連邦税として組み込まれました。

ところが、ここで大きな落とし穴。

1945年から1953年にかけて、西ドイツはコーヒー1kgあたり10マルクという、非常に高い税率を課していました。

その一方、隣国ベルギーにはコーヒー税がありません。この価格差が、大規模な密輸を生みます。

その名も「アーヘン・コーヒー戦線(Aachener Kaffeefront)」。

装甲を施した密輸用の車両「コーヒー戦車(Kaffeepanzer)」まで登場し、税関側も追跡用にポルシェを使ったと伝えられています。

この抗争で、密輸業者31人、税関職員2人が死亡したという記録も残っているようです。

コーヒー1杯のために、そこまでの事態になっていたとは……。

さすがに、これは初めて知ったときぞっとしました。

1953年8月24日、税率は10マルクから4マルク(一部資料では3マルク)へと大幅に引き下げられます。密輸する経済的なメリットが消え、合法的な消費が急増。翌年の税収は、減税前よりむしろ増えたそうです。

税率を下げたら税収が増えた、という逆説的な結末。単純な「税率を上げれば税収も増える」という発想では説明がつかない、興味深い事例だと思います。

ユーロ導入で固定された現在の税率

その後、欧州経済共同体(EWG)の発足に伴って輸入関税が段階的に撤廃されていく中で、その減収分を補うためにコーヒー税が増額調整されます。

そして2002年、ユーロ導入のタイミングで、ドイツマルクの税率をそのまま換算した現行税率——焙煎コーヒー2.19ユーロ(約370円)/kg、可溶性コーヒー4.78ユーロ(約810円)/kg——が確定しました。

先ほど紹介した「据え置きの税率」の正体は、ここにあります。

なお、密輸取り締まりをめぐっては、地域ごとにいくつかの逸話も伝えられています。窮乏下の窃盗を容認したケルンの司教の説教に由来するとされる俗語「フリングセン」、密輸益で教会が再建されたという「聖モッカ」の愛称、市民の抗議デモの逸話……。

このあたりは史実というより、地域に伝わる語り草の域です*2

東西統一でどうなったのか——旧東ドイツは別の歴史を歩んでいた

ここで、ひとつ誤解しやすいポイントに触れておきます。

「東西統一で、旧東ドイツにもコーヒー税が広がった」と考えると、実は少し不正確です。

旧東ドイツには、そもそもKaffeeStG(コーヒー税法)のような独立消費税の概念自体がありませんでした。

その代わりにあったのは、別の仕組みです。コーヒーは輸入に外貨を要する「政治的商品」として、意図的に高い価格が設定されていました。事実上の贅沢税として機能していた、というわけです。

1977年には「コーヒー危機」と呼ばれる出来事も起きています。世界的なコーヒー価格の高騰で外貨不足に陥った東ドイツ政府が、ライ麦や大麦を混ぜた代用コーヒーを投入し、国民の強い不満を招いたそうです。

これは西ドイツのコーヒー税とはまったく別の、独自の歴史です。混同しないよう気をつけたいところ。

その後、1990年7月1日の通貨・経済・社会同盟の発足に伴い、西ドイツのコーヒー税法が、そのまま旧東ドイツ地域にも拡大適用されることになりました。

なぜ今も維持されているのか——税収規模とたばこ税・酒税との違い

260年近く続いているとはいえ、なぜ今も廃止されずに残っているのでしょうか。

一番の理由は、シンプルに財政目的です。

コーヒーはドイツで最も人気のある飲料のひとつで、国民1人あたり年間約167リットルも消費されているとされています。消費が安定していて、しかも州や自治体と分配せず連邦が単独で得られる財源。行政側からすると、実に「都合のいい税」というわけです。

年間の税収は、近年10億ユーロ超(約1,700億円超)で推移していて、2021年の確定値では10億5,800万ユーロ(約1,800億円)にのぼります*3

ドイツの総税収からすると約0.1%程度で、「少額税(Bagatellsteuer)」と呼ばれる部類です。それでも絶対額でみると、ビール税のおよそ2倍近い規模。決して無視できる金額ではありません。

たばこ税と違って、コーヒー税には「消費を抑えて健康を守る」といった政策的な意図はほとんどないとされています。あくまで、広く普及している飲料から効率よく税収を得る、という性格が強いようです。

廃止を求める動きも、これまで何度かありました。焙煎大手のダーボーベン(Darboven)などによる署名活動は2011年から2013年にかけて行われましたが、2013年2月に連邦議会で却下。フェアトレードコーヒーだけを免税にしてほしいというNGOの要望も出ていますが、特定の商品だけを優遇すると法の平等原則に触れるおそれがあるとの見解が示され、実現には至っていません。

日本にも、酒税やたばこ税のように「特定の一品目だけを狙い撃ちにする税」はあります。特別な発想ではないんですよね。

ただ、その対象がここまで生活に根づいた嗜好品——コーヒー——になっている、というところに、この制度のちょっと変わった味わいがあるように思います。

世界で見てもドイツは少数派——他国のコーヒー税と越境購入

コーヒー単独の個別消費税を持つ国は、実はEU・世界的に見ても少数派です。

名前が挙がるのは、ベルギー・デンマーク・ギリシャ・クロアチア・ラトビアあたり。税率で比べると、ドイツの2.19ユーロ/kg(約370円/kg)は、その中でも比較的高い水準にあるようです*4

一方、隣国のオーストリアやルクセンブルクには、コーヒー税そのものがありません。

この価格差が、越境購入の一因になっているとされています。歴史のパートで紹介した「アーヘン・コーヒー戦線」と、ちょっと重なる構図ですね。数十年経っても、隣国との税率差が人を動かす、という点は変わっていないようです。

ちなみに、ドイツ国内では紅茶に同種の独立税はありません。プロイセン時代のフリードリヒ大王の課税リストには紅茶も含まれていたようですが、現行制度では対象外。理由についてはっきりした記述は見当たらなかったので、ここでは深追いしないでおきます。

旅行者としてどう関わるのか——お土産のコーヒー豆にも税は含まれている

もし、ドイツ旅行のお土産にコーヒー豆を買って帰るとしたら。

自分で何か特別な納税手続きをする必要はありません。ただし、購入した時点ですでに価格にコーヒー税が織り込まれています。250g購入すると、税額にしておよそ0.55ユーロ(約95円)相当という試算もあります*5

ちなみに、VAT(消費税)には外国人旅行者向けの還付制度がありますが、コーヒー税はその対象に含まれません。買ったときの価格が、そのまま最終的な負担額です。

個人的には、コーヒーがここまで生活に馴染んでいるドイツだからこそ、こんな独立税が260年近くも生き延びてこられたのではないかと思っています。日本の緑茶にそういう税があったら、と想像すると、なんだか不思議な気分になります。

まとめ

ドイツのコーヒー税は、260年近い歴史を経て、今も年間10億ユーロ超(約1,700億円超)を生む「地味だが手堅い財源」として現役です。

プロイセンの国家独占から始まり、密輸との攻防を経て、占領下で今の形に再構築され、ユーロ導入時の換算がそのまま今の税率になっている。

税金というものは、理屈だけでなく、時代の都合と歴史の積み重ねでできあがっているんだなあと、あらためて実感しました。

次にドイツ産のコーヒー豆を見かけたら、そのパッケージの向こうにある260年の歴史を、ちょっと思い出してみてはいかがでしょうか。

注記

この記事の数字・年号は、リサーチ時点で確認できた資料の範囲で整理したものです。今後の法改正や新たな史料の発見で変わる可能性があります。本文中の円換算は、すべて1ユーロ=170円の概算レートで機械的に計算した目安であり、実際の為替レートではありません。

*1 1杯あたりの税額(0.02〜0.03ユーロ/約3〜5円)は、使用する豆の量に依存する概算試算であり、公式統計として発表された数値ではありません。
*2 フリングセン・聖モッカ・パダーボルンのコーヒー騒動は、地域に伝わる逸話・伝承として紹介されており、史実として確定した記録ではありません。
*3 年間税収「10億5,800万ユーロ(約1,800億円)」は2021年の確定値です。以降の年次の確定値までは確認できていません。
*4 国際比較で挙げた他国の税率(ベルギー約0.25ユーロ/kg・約40円/kg等)は出典年次が明示されておらず、精密な同時点比較としては扱っていません。
*5 旅行者が負担する税額(250gで約0.55ユーロ/約95円相当)も概算試算です。

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