カフェのコーヒー原価を分解する|豆代より重い人件費と家賃

コーヒーカップの断面を豆代(小)と人件費・家賃(大)の2色に色分けし、内訳の偏りを示した図に「豆代より重い、人件費と家賃」の見出しを添えた図 産業・マーケティング

「家で淹れたら、1杯で何十円なんだよなあ」

休日の午後、福岡のカフェで500円のコーヒーを前にして、ふとそんなことを考えてしまいました。

いや、おいしいんです。文句はまったくありません。

ただ、豆を自分で焙煎している身としては、どうしても気になる。

この500円のうち、豆そのものにはいくら使われているのでしょうか。

前回は「生産国から家に届くまで」の1杯を分解しました。今回はその続きで、喫茶店・カフェで出てくる1杯です。

先に結論:500円のうち、豆そのものは数十円

いきなり結論から言います。

コーヒーというドリンク単体で見たときの原価率は、10〜20%程度という記述が、複数の資料で一貫していました。

350〜500円のコーヒーに対して、豆代は数十円。あとで自分でも積み上げてみますが、だいたいこの桁に収まります。*1

では、残りの8割前後は何なのか。

そこが本題です。

ひとつだけ、先に。原価率が低いことは、「店が儲けている」ことを意味しません。 判断するのは、人件費や家賃を含めた総コストを見てからです。

店舗全体で見ると、主役は人件費と家賃になる

では、豆代以外の部分には何が入っているのか。

日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」2019年度版に基づく費目の構成比が、資料に挙げられていました。*2

  • 原材料費:30%
  • 人件費:36%
  • 家賃・地代:11%
  • その他経費:18%
  • 営業利益:逆算で5%程度*3

日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」2019年度版に基づき、売上100に対する原材料費30・人件費36・家賃地代11・その他経費18・営業利益5の内訳を示した帯グラフ

近年の目安として語られる幅も出てきます。原材料費24〜35%、人件費25〜36%、家賃10〜15%、水道光熱費は年間平均で約5%程度。*4

もう一つ、飲食業でよく言われる「FLR比率(3-3-1の法則)」というものもあります。

原材料費30%以内(カフェは20〜25%が理想)、人件費30%以内、家賃10%以内、合計70%以内。*5

さて、注目したいのはここ。

人件費と家賃を足すと、原材料費より重い。

そして、この2つは家で淹れるときには一切かからないコストです。

うちの台所には時給が発生していませんし、家賃を払ってはいても、それをコーヒー1杯に割り振ったりはしていません。

ここが、家の1杯と店の1杯の決定的な違いだと思っています。

豆代を自分で積み上げてみる

受け売りだけでは面白くないので、豆代を自分で積んでみます。

1杯に使う豆は、ハンドドリップで一般的な15gと置きます。

焙煎で目減りする分も乗る

生豆を焼くと軽くなります。この重量減少率(焙煎ロス)は、14.7〜15%という数値が資料で最も頻出でした。*6

「焙煎豆15gを得るには、生豆が約17g必要」という具体例もあります。

これは自家焙煎をしていると本当に実感します。深めに焼いた日は、明らかに軽い。

同じ量を仕込んだつもりでも、出来上がりの量が違うんですよね。

生豆の値段は「どの段階の価格か」で桁が変わる

ここが、今回いちばん厄介だったところです。

生豆は「kgいくら」と一言では言えません。誰が誰から買う値段なのかで、金額が数倍変わってしまうからです。*7

資料にあった数字を、豆が動く順に並べてみます。

  • 生産地での商社買付価格(平均):約750円/kg
  • C市場価格(2021年の中央値):1.42ドル/ポンド=約3.1ドル/kg
  • スペシャルティ(87点評価)のFOB価格(2021年の中央値):3.70ドル/ポンド=約8.2ドル/kg
  • ロースターへの到着コスト(物流費・保険込):3.55ドル/ポンド=約7.8ドル/kg
  • 日本の商社からの一般的な生豆原価(2020年時点):約1,500円/kg
  • アラビカ種の市場価格(2026年2月時点):4.41ドル/ポンド=約9.7ドル/kg

1ドル150円で換算すると、店やロースターが実際に仕入れる段階で、おおむね1,200〜1,500円/kg。指標となる市場価格そのものは、もっと安い。

ここで、ひとつ注意書きを。

同じ資料には「スペシャルティ約6,000円/kg、コモディティ約2,800〜3,000円/kg」というグレード別の相場表もありました(2018年時点)。私も最初はこの数字で計算しかけたのですが、これは古い時点の一覧表で、より新しい資料や国際的な取引段階の数値と比べると、頭ひとつ高い水準になっています。

麻袋単位での実際の仕入れに近いのは、上に並べた1,000円台のほうです。*13

積んでみる

焙煎豆15gを得るには、生豆が約17g。ここに値段を掛けます。

日本の商社から買う水準(約1,500円/kg)なら、豆代は1杯あたり約26円

指標価格まで下げるとどうなるか。C市場価格の水準(約470円/kg)なら約8円、スペシャルティ87点のFOB価格の水準(約1,220円/kg)なら約21円です。

つまり生豆そのものは、1杯あたり10〜30円。スペシャルティとコモディティの差も、1杯にすれば十数円しかありません。

500円のコーヒーに対して、豆そのものは5%前後ということになります。

生豆価格と1杯あたりの使用量から豆代を算出する流れを、コモディティ(C市場水準・約470円/kg)とスペシャルティ(87点FOB水準・約1220円/kg)の2通りで示した積み上げ計算の図解。生豆17gで約8円と約21円、差は約13円

それから、忘れがちなのが容器と副資材。

テイクアウト用のカップ・蓋・スリーブは販売価格の5〜7%程度、ミルクや砂糖などの副資材は5%程度という試算例があります。

豆代・容器・副資材を合わせると、350〜500円の販売価格に対して合計100円前後という指摘もありました。

なるほど、と思いました。豆だけ見ていると、まるっと見落とす部分です。

なぜ豆代の比率が小さくなるのか:カフェは「席と時間」を売っている

ここからが、私が一番面白いと思った部分です。

カフェは他の飲食業態と比べて客単価が低く、客席回転率も低い。要するに、お客さんが長く座ります。

だから原材料費の低いドリンクで粗利を確保して、重い固定費を賄う設計になっている、という説明が資料では一貫していました。

家賃は、売れても売れなくても毎月同じ額が出ていく固定費です。

都市部の一等地なら、高い客単価か、極めて高い回転率か。どちらかでしか回収できない、と説明されています。*8

ここで、視点をひとつ変えてみます。

原価を「1杯あたり」ではなく、「1席1時間あたり」で見てみる。

2時間ねばる私と、10分で出ていく人。

同じ500円でも、店が負担している固定費はまるで違います。

同じ1杯500円でも、1杯単位で見るか1席1時間あたりで見るかで店の負担が変わることを、滞在10分の客と滞在2時間の客で対比した図解

提供の手間も効いてきます。

バッチブリューやセルフサービス、コンビニのコーヒーは人件費を抑えて低価格を実現する一方、ハンドドリップは1杯に5〜10分かかる。

1杯あたりの人件費が約150円(売上の30%相当)に達するという試算があります。

……1杯で150円。豆代よりずっと重い。

そして資料は、カフェの価格設定を「原価+利益」ではなく、体験価値・空間価値に基づく価値ベースの価格設定として説明しています。

原材料費や人件費から積み上げた理論価格が169円でも、雰囲気や職人技や利便性を加味して500円が成立し、それが高い固定費の回収を支えている、と。

つまり私たちは、飲み物代を払っていると同時に、席代と時間代を払っているわけです。

この読み替えを覚えてから、居心地のいい店に対する見方が、少し変わりました。

その店の豆を買って帰ると、1杯いくらになるか

ここで、ひとつ実験ができます。

豆売りをしているカフェなら、さっき飲んだのと同じ豆を、買って帰れる。焙煎したのも同じ人です。違うのは、席に座るかどうかだけ。

いくらになるか、計算してみます。

仮に、買った袋が200gで1,500円だったとしましょう。*9

1杯15gなら、200gから約13杯。1,500円を13杯で割ると、1杯あたり約113円です。

同じ店の同じ豆が、500円と113円。

カフェで買った豆を家で淹れた1杯の約113円と、カフェで淹れてもらう1杯の500円を横棒の長さで比べ、差が約387円であることを示した図解。前提は1杯15g、袋は200gで1500円

差は約387円。およそ4.4倍です。

ここで気をつけたいのは、この113円は「原価」ではないということ。焙煎の手間も、袋代も、店の利益も、ぜんぶ入った小売価格です。

先に積んだ豆そのものの26円と比べてみると、その差は87円。これが、生豆を「売れる商品」にするためにかかっている分ですね。

では、そこからさらに乗る387円は何なのか。

ひとつは、淹れてもらう手間です。ハンドドリップなら1杯あたり約150円という試算が、さっき出てきました。

残りは、席であり、空間であり、容器です。

家で淹れると、この387円がまるごと消えます。*10

消えるというより、自分で引き受けている、と言うべきかもしれません。湯を沸かすのも、淹れるのも、洗うのも自分です。座る場所は自前で用意する。

だから、どちらが得という話ではないんだと思います。

387円ぶんの席と時間が要る日なのかどうか。そこだけの違いです。

300円台の店と800円の店、違いは豆ではない

同じコーヒーなのに、300円台の店もあれば、800円を超える店もあります。

「高い店は、いい豆を使っているから」

私も長らくそう思っていました。……が、ここで落とし穴。

先ほど積んだとおり、スペシャルティとコモディティの豆代の差は、1杯あたり十数円ほど。

1,000円のホテルのコーヒーでも、豆自体の原価は150円程度とされています。

つまり、豆の質だけでは400〜500円もの価格差は説明しきれない。

資料が価格差の主因として挙げているのは、次の3点です。

  • 提供の手間による人件費の差
  • 空間価値・家賃・立地
  • 客席回転率と滞在時間

そのうえで、こんな対比が示されていました。

300円台の店は、テイクアウト・セルフサービス・高回転・低家賃の立地で、効率を売っている

800円以上の店は、内装・サービス・長時間の滞在・バリスタの技術という、空間と体験を売っている

効率側の極端な例が、コンビニのコーヒーです。

原材料費の比率は約47%と、むしろ例外的に高い。それでも成り立つのは、テイクアウト専門で客席を持たず、家賃と人件費を極限まで削っているからだとされています。滞在時間はほぼゼロで、回転数は非常に高い。

原価率だけでは、商売の成否は測れないんですね。

個人経営はサービス重視、大手チェーンは立地重視、テイクアウト特化型は効率重視、という業態の見取り図も資料にはありました。*11

どちらが良い・悪い、ではありません。

売っているものが、そもそも違う。

急いでいる朝に800円の店に入るのはもったいないし、本を読みたい日に回転重視の店を選ぶと落ち着かない。そういう話だと思っています。

この見方を持つと、値上げとカフェ選びはどう見えるか

値上げの案内を見ると、つい「豆が高いのか」と思ってしまいます。

でも、資料で挙げられている値上げの背景は、豆だけではありませんでした。

アラビカ種の市場価格上昇、ミルク、容器包装費、光熱費、そして最低賃金の引き上げに伴う人件費。

生豆の輸入価格については、ブラジル・ベトナムの不作、円安、輸送費の高騰により、コロナ禍前と比較して約3倍という記述があります(2025年1月時点、IMOM「コーヒー豆卸価格の相場」)。

直近の動向としては、2026年5月度の喫茶業態の売上が前年同月比9.3%増、客単価は5.6%上昇(日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」2026年6月発表)。

もっと長い目で見ると、1世帯あたりの喫茶代の年間支出額は2006年から2016年で15.8%増えています(価格変化分を除いた指数、厚生労働省資料・総務省「家計調査」ベース)。

店舗数は2007年をピークに減り続けている一方、市場規模は2011年度の1.02兆円から2017年度は1.14兆円へ(厚生労働省資料)。

店は減っているのに、市場は縮んでいない。

価格帯の分布では、単価「500円〜750円未満」が全体の33.6%と最も多く、個人経営店では47.8%がこの帯に集中しているそうです。*12

前回の記事で追いかけた国際相場の話と重ねると、店頭の値段が相場だけで決まっているわけではないことが、よく見えてきます。

持ち帰りはシンプルです。長居する日は、空間にお金を払っていると考える。急ぐ日は、効率を売っている店を選ぶ。

それだけで、500円の受け止め方はけっこう変わります。

それでも、私はこの一杯を「高い」とは思わない

さて、ここまで数字で分解してきましたが、最後にひとつだけ、個人的な意見を書かせてください。

カフェで提供される一杯のコーヒーは、高すぎるのでしょうか。

私はそうは思いません。

たしかに、コーヒーを飲むという体験そのものは、自宅のほうがリーズナブルかもしれません。しかし、カフェでの「それ」には、ゆっくりと流れる落ち着いた空間や雰囲気が含まれています。そして何より、バリスタが想いを込めて淹れてくれる一杯は、自宅で淹れたものよりもずっと味わい深いはずです。

その金額差には、プロの技術とカフェの空間、その両方が詰まっている。だから私は、そこに敬意と感謝が含まれていると考えています。

たとえ大手チェーン店であっても、落ち着いて本を読める時間や、作業ができる空間の使用料だと思っています(ただし、そういう店では大抵ラテを注文しがちですが……)。

だから、焙煎豆も買いますし、自家焙煎もします。それでも、お気に入りのコーヒーショップでプロが淹れてくれた一杯は、これからもありがたく買わせてもらうつもりです。

まとめ

500円のうち、豆そのものは数十円。

大半を占めているのは人件費と家賃、つまり「席と時間」を維持するためのコストです。

だから店ごとの値段の差は、豆の差というより、その店が何を売っているかの差になります。

……とはいえ、この記事で一番持ち帰ってほしいのは、実は数字そのものではありません。

値段を見たときに、「この店は、何を売っているんだろう」と考えてみる。

それだけで、同じ500円の見え方がずいぶん変わります。

前回の記事では、生産国から家に届くまでの1杯を分解しました。あわせて読むと、豆1粒の代金が誰の手を通って自分のカップにたどり着くのか、通しで見えてくるはずです。

注記


この記事の数字は、複数の資料にあった調査値や試算例をまとめたものです。条件が変われば結果も変わります。

*1 実在する店を調べ上げた統計ではなく、条件を置いた試算例です。業界平均ではありません。
*2 個人経営店の実態に近い数値とされるもので、全カフェの平均ではありません。
*3 営業利益率については、資料の中でも「平均5%」と「平均マイナス1.4%(黒字店に限れば4.9〜10%)」が併存していました。赤字店を含む平均か、黒字店だけの平均かで、符号すら変わります。
*4 こちらは出典の特定精度が低い資料群に基づく数値です。
*5 これは実測値ではなく、健全経営の目安として語られているものです。
*6 資料によっては12〜16%、焙煎度合いで浅煎り16%・深煎り約20%、最大22%という記述もありました。
*7 ドル建ての価格は1ドル=150円で円換算しています。為替レートが変われば円建ての金額も変わります。
*8 これは実測された因果ではなく、価格設定の考え方としてそう語られている、という話です。
*9 200gで1,500円という袋の値段は、計算を成立させるために置いた一例です。相場を調べて出した数字ではないので、手元の袋の値段と内容量で置き換えてください。1杯あたりの豆代は「袋の値段 ÷(内容量 ÷ 15g)」で出せます。
*10 家で淹れる側に、湯を沸かす電気代・ペーパーフィルター・水道代は含めていません。豆代だけの比較です。
*11 統計的な分類ではなく、一つの整理として紹介されているものです。
*12 この数値は、厚生労働省資料を引用したSTORESマガジン2026年4月の記事経由のもので、一次資料そのものには当たれていません。
*13 「約6,000円/kg」「約2,800〜3,000円/kg」は2018年時点のグレード別相場表で、資料内では出典が明示されていません。本文の試算は、出典・時点が確認できる2020〜2026年の数値(日本の商社からの生豆原価、国際的な市場・FOB価格)を優先しています。

参照元

  • 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」2019年度版
  • 日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」(2026年6月発表)
  • 厚生労働省資料(総務省「家計調査」ベースの喫茶代支出、店舗数・市場規模、価格帯分布)
  • STORESマガジン 2026年4月記事(上記の価格帯分布の引用元。一次資料には未到達)
  • IMOM「コーヒー豆卸価格の相場」(2025年1月時点)

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