先日、YouTubeをなんとなく眺めてたら、片山さつきさんのチャンネルで
「【 珈琲市場 】世界が注目するコーヒー豆・コーヒーマーケットの行方」
というタイトルが目に飛びつく。https://youtu.be/V1FMFMdsRyg?si=kiKzlJY-lMzhWDgR
「片山さん、コーヒー好きなんだ」ということで一気に親近感が湧いた(笑)
その中で出てきた話で……
コーヒー市場は40兆円規模で、石油市場の1/10くらいらしい。
毎日何気なく飲んでいるコーヒーが、石油と比較されるような市場だとは……
コーヒーの価格自体が高騰しているのも、昨今の物価高や気候変動によるものだとなんとなく理解していたけど、市場の大きさが拡大していることについてはあまり意識していなかった。
コーヒーの需要は増えているけど、生産量はあまり増えていない?
調べてみると、
- 世界のコーヒー生産量は年1〜2%程度の増加

引用元:Food and Agriculture Organization of the United Nations (2025) – with major processing by Our World in Data
こちらは国連食糧農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations)から引用したグラフ。2000年から2023年までで計算すると年率1.7%程度。

参照元:https://coffee.ajca.or.jp/data
こちらは、国際コーヒー機関(ICO)から持ってきた最近5年間の生産量のグラフ。これを見ると、最近5年間はそれほど増えていないみたい……
注)ICOの単位は60kg袋(bags)
一方で市場は?というと…
- 世界のコーヒー市場は年5%程度で拡大している

参照元:https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/coffee-market
というかんじ。その中でも特に需要が伸びているのが、中国や東南アジア諸国らしい。
そして、やはりスペシャリティコーヒーやシングルオリジンブームでアラビカ種の需要が高まっている。
つまり、生産も増えてはいるけれど、
需要の伸びのほうがやや速い、という状況らしい。
さらに、
- 生産量が増えているのは主にロブスタ種
- 需要が伸びているのはアラビカ種
というミスマッチ。
量としては足りていそうでも、
「欲しがられている豆」は不足気味、
ということのようだ。
なぜアラビカ種は簡単に増えないのか
これについては、コーヒー好きな人ならすでに既知の事実かもしれないが、アラビカ種については
- 高温や病害に弱い
というのが最大の弱点。
参考元はこちら。すごく読みやすい作品。

紅茶の生産で有名なスリランカが、実はアラビカ種の生産がかなり盛り上がっていたが、1870年代にさび病で壊滅的になってしまったこともこの本を読んでかなり印象的でした。
工業製品のように、「需要が増えたから来年は増産」というわけにはいかない。
科学技術で解決できないのか?
ここで素朴な疑問が湧いてくる。
最先端の科学技術で、アラビカ種の生産量は増やせないのだろうか?
私の頭の中では、
医療でも全ゲノム解析が容易となっている昨今であるのだから、コーヒーについても解析し、さび病に対する耐性遺伝子を特定、ゲノム編集による克服が可能ではないか?
と単純な疑問が生じてしまう。
ということで、この点についても調べてみると、
アラビカ種のゲノム解析自体はすでに進んでおり、
病害耐性や耐暑性に関わる研究も行われている様子。
ただし、ゲノム編集が容易かといわれると、これはまた別問題。
いろんな記事を読んでて、まず気付かされたのは
そもそもコーヒーは収穫まで3~5年程度であり、効果判定までの時間が長過ぎる、ということ
確かに遺伝子組み換えが容易なトウモロコシや大豆などとは訳が違う。ここらへんは確かに難しいかもしれない。そこで……
- F1ハイブリッド(交配改良)
といった、
外来遺伝子を入れない方法が現実路線として注目されているようです。
※Google日本語変換で十分読める内容です。
つまり、アラビカ種とさび病耐性を元々持っている品種(Timor Hybrid 由来の耐性を持つアラビカ系統 例:ParainemaやKartilaなど)を配合することで、さび病耐性を獲得できる、という極めてシンプルな方法。
すでにCOEで90点というハイスコアを叩き出したこともあるとか。
しかし、この技術を持ってしても完全ではない。なぜなら、全てのさび病耐性遺伝子を組み込むことはできないし、病原菌自体もそれらの耐性遺伝子に対してさらに新たな耐性を獲得する可能性もあるとのこと。
これは個人的に非常に興味深い。感染症診療に携わっている身としてはまさに耐性菌との戦い。特に緑膿菌は治療をしている中で新たな耐性を獲得することも珍しくはない。最近、久しぶりに新しいβラクタム系抗菌薬が登場しているが、結局はいたちごっこの繰り返しであり、それ故に製薬会社もなかなか抗菌薬の開発が進まない(開発しても菌が耐性化するため、他の抗菌薬に対する優位性がなくなってしまい、赤字になってしまう)。コーヒーにしても多分同じなのかな?後述するように基本的に零細農家中心のため、研究機関、企業、生産国、農家がどのように連携できるのか難しい点もあるのかもしれない。
今まであまり気にしていなかったが、ハイブリット種を飲んだことあったのかな?今度、仕入れてみよう。
コーヒー豆側の問題以外としては、
- 根の周りの微生物環境を整える
- バイオ炭などで土壌の保水性を高める
こうした方法で、
- 収量が1〜2割ほど改善した例
- 肥料効率が上がった例
が報告されているようだ。
生産体制は「大規模化」しているのか?
ここで、日本の米作りと少し似た疑問が浮かぶ。
零細農家が個別に作っているのは非効率ではないのか?
大規模化した方がいいのでは?
調べてみると、
アラビカ種の生産は今でも、
- 小規模農家が圧倒的に多い
- 1〜2ヘクタール未満の家族経営が中心
という構造が主流らしい。
理由としては、
- 山岳地形で集約しにくい
- 土地制度・相続で細分化しやすい
- 価格変動が大きく、設備投資リスクが高い
といった事情があるようだ。なるほど、確かに日本のコメ農家と似ている。
さらにコーヒーは米とは違い、基本的に山の斜面などに植え付けられることが多く、米のように平坦な水田ではない。つまり、コーヒーチェリーのピッキングについてもなかなか自動化というのは難しいかもしれない。
スペシャルティコーヒーについては必ずしも大規模化が良いということではない。
一方で、需要が伸びているスペシャルティコーヒーについては、
あえて大規模化しないことが、商業的に重要
と考えられているようだ。これには個人的にも納得。
これはワインとよく似ていて、
- 生産者の名前
- 農園の場所
- 標高や土壌
- その年ごとの出来
といった情報が、
そのまま価値や価格につながる。コーヒー豆に付帯する紹介文を読みながら、ニヤニヤしているのは多分僕だけではないはず。
マイクロロットやナノロットのように、
「量が少ないこと自体が価値」
という考え方も普通に存在する。
この世界では、
「大きくできない」ではなく
「あえて大きくしない」
という選択が、
きちんとビジネスとして成立しているように見える。
調べてみて思ったこと
今回いろいろ調べてみて、
- コーヒー価格が上がるのは、ある意味自然な流れにも見える
- 生産量は増えているが、余裕があるわけではなさそう
- 科学技術で改善はできそうだが、急激な増産は難しそう
- 量産とスペシャルティでは、目指す方向がまったく違う
そんな印象を持った。ということで残念ながらスペシャリティコーヒー価格はこれからも上昇し続けるのであろう……涙
毎朝飲んでいる一杯のコーヒーの裏側には、
農業、科学、企業、文化が複雑に絡み合っている。
YouTubeでたまたま観た動画が、
そんなことを考えるきっかけになった、という話でした。


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